-- 石畳の坂道、寺社、それらを取り囲む海、という観光には持ってこいのロケーションにも関わらず、その喫茶店はできればそっとしといてほしい、と言いたげな風貌でノスタルジーな商店街の2階に息をひそめていた。労働前にそこでコーヒーを飲んだり、店の奥の窓から差し込む日差しが埃に反射してきらきらと舞っているのを眺めたりするのが好きだった。ある日いつものように一人でそうしていると、観光客と思しき団体がぞろぞろと入ってきた。段差の多い不思議な間取りに年季の入ったアップライトピアノやコントラバス、本棚に収まりきらない程の様々な書籍など、あまりにフォトジェニックすぎる内装のせいか彼らは大層はしゃいでいた。そして私の席のブックエンドが気になったのだろうか、彼らの一人が鼻先を掠めてその本に手を伸ばすと、店主は一言、「ウチそういう店じゃないんで」と彼らを出口に促した。オーダーとお会計以外で声を聞くのは初めてだった。その後店主は「騒がせてごめんね」とソーサーにチョコを置いて行ってくれたのだが、私が何かに落ちる音がこの静かなハライソに響いてやしないか、そのことで頭がいっぱいだった。 ショップ名:松川終電で帰ります、色:、サイズ:、素材:Translation missing: ja.products.mini clear multi case.body name
SUZURI